「言っていることは正しいのに、人間らしく聞こえない。」
AI電話オペレーターを導入した方が、まず口を揃えておっしゃる感想です。
こんにちは、Sonethoです。⚡
第1弾(入門編)と第2弾(不動産オフィス編)をご覧になってAI電話オペレーターを構築された方々から、繰り返しいただくご相談があります。
スクリプト自体は完璧なのに、怒っているお客様に対しても、契約が決まった瞬間でも全く同じトーンで話してしまうという点です。
人間なら声のトーンが変わるはずの場面で変化がないため、聞き手はすぐに「またAIか」と心を閉ざしてしまいます。
ElevenLabsがこの課題を解決するために開発したのが、表現モード(Expressive mode)です。
⚠️ まず最初にお伝えしておきたい点があります。これは今回新しく登場した機能ではありません。
公式ブログ基準で2026年2月に公開されたものです。
しかし公式ドキュメントには日付の記載がないため、今初めて目にする方も多く、私たちのシリーズ記事でもこの質問を一番多くいただきました。
そこで今回は、Expressive modeの設定方法を分かりやすく解説します。
🎭 1. 表現モードは2つの仕組みが連動します
ボタン1つで感情を乗せるような機能ではなく、対話スタックの2つの部分を同時に切り替える仕組みです。
① Eleven v3 Conversational(話す側)
v3をリアルタイム対話向けに低遅延化したモデルです。最大の特徴は、対話の文脈をターンの間でも引き継ぐという点です。
ユーザーが不安そうな声であればより落ち着いたトーンに、正確に伝えるべき重要な場面ではより明瞭な発音へと柔軟に変化します。
② 新しいターンテーキングシステム(聞く側)
いつ発話しいつ待つべきかを、Scribe v2 Realtimeのリアルタイム信号によって判断します。
テキスト起こしされた文字情報だけでなく、どのように話したか(イントネーションや抑揚)まで認識します。
公式ドキュメントに記載された例が非常に直感的です。
「はい」という一言は、返答を終えた合図のこともあれば、さらに言葉を続けようとしている相槌の場合もあります。
文字だけでは区別がつきませんが、話し方のニュアンスを見れば判断がつきます。これをもとに、AIが自然に口を挟むタイミングを計ります。
そのため、表現モードを有効にすると、声に感情が乗ることと、不自然な会話の遮りが減ることが同時に実現します。
⚙️ 2. 設定はモデルを1つ変更するだけです
専用のスイッチがあるわけではありません。TTSモデルをV3 Conversationalに選択するだけで、表現モードがデフォルトで有効になります。
ダッシュボードから設定する場合
エージェントを開き、Agent Voiceタブに移動して、Text to SpeechモデルをV3 Conversationalに変更して保存すれば完了です。
CLIから設定する場合
elevenlabs agents pull --agent "<エージェント名>"取得したagent_configs/<エージェント名>.json内のconversation_config.tts.model_idを以下のように変更します。
{
"conversation_config": {
"tts": {
"model_id": "eleven_v3_conversational"
}
}
}elevenlabs agents push --agent "<エージェント名>"
APIから設定する場合
from elevenlabs import ElevenLabs
elevenlabs = ElevenLabs()
elevenlabs.conversational_ai.agents.update(
agent_id="ここにエージェントIDを入力",
conversation_config={
"tts": {"model_id": "eleven_v3_conversational"},
},
)
📝 3. トーンはシステムプロンプトで指示します
モデルを変更しただけで放置すると、感情の表現幅は広がっても、どこでどう使い分けるかはモデル任せになってしまいます。
ブランドトーンや応対マニュアルが決まっている現場なら、システムプロンプトに明記することで一貫性を保てます。
方法①:大まかな方向性だけを指定する
あなたはカスタマーサポートのオペレーターです。ユーザーが困っていたり苛立っているように感じられる場合は、
落ち着いて安心感を与えるトーンで応答してください。良い知らせを伝える際は、声に心からの温かみが感じられるようにしてください。
全体として、プロフェッショナルでありながら親しみやすい口調を維持してください。
方法②:シチュエーションごとに明確に規定する
トーンガイドライン:
- ユーザーが不満を表明した場合は、落ち着いた共感的なトーンを用いる
- 技術的な手順を説明する際は、明瞭で一定のスピードで話す
- ユーザーが良い報告をした際は、温かく明るくリアクションする
- クレーム対応時は冷静さを保ち、問題解決を中心に話す
公式ドキュメントでは、すべてのシチュエーションに細かくタグをつける必要はないと説明されています。
上記のように自然言語で記述しておけば、モデルが文脈に合わせて自動で解釈します。
実務においては②の方法が安全です。応対ルールがある業種なら、「どんな場面でどんなトーンか」を文章として残しておく方が、後々の品質チェックも容易になります。
🏷️ 4. 特定の瞬間だけタグで指定する
文脈に基づく自動調整に加えて、特定のフレーズだけを明示的に指定することも可能です。
LLMが回答テキストの中にタグを直接出力する形式をとります。
[laughs]笑いを交えます[whispers]声をひそめてささやきます[sighs]ため息交じりのニュアンスを出します[slow]話す速度をゆっくりにします[excited]弾んだトーンにします
★ここが最も誤解されやすいポイントです。タグ1つで文全体のトーンが変わるわけではありません。
各タグは、直後に続く4〜5単語程度にのみ影響を与え、その後は元のトーンに戻ります。
そのため、「文頭に1つ置いておけば全体に効くだろう」と使うと思ったような効果が得られません。
変化をつけたい箇所の直前に配置する必要があります。
公式の用例は以下の通りです。
"That's great to hear! [laughs] I'm glad we could sort that out for you."
タグの使い方にまだ慣れていない方は、v3のタグ仕様を本格的に解説したElevenLabsプロンプト完全ガイドを先にご覧いただくのが確実です。
感情・効果音タグから発音やポーズの制御まで網羅してまとめています。
⚠️ 5. 導入前に必ず確認すべき制限事項
公式ドキュメントには3つの制限事項が明記されていますが、特に1点目が重要です。
① プロフェッショナルボイスクローン(PVC)の特性が保持されない
コストと時間をかけて代表者の声や専属声優の音声をPVCで作成して運用している場合、この項目が導入の分かれ目になります。
Eleven v3 Conversationalは、現時点ではPVCの固有の特徴を十分に保持できません。
出力結果が、本来のクローン元の声と異なって聞こえる可能性があります。
公式ドキュメントの推奨も明確です。PVCによる声のアイデンティティを最優先する場合はFlash v2を使用してください。
つまり、現段階では「表現力豊かな感情を取るか、特定のクローン音声の再現性を取るか」の二者択一となります。両方を同時に満たすことはまだできません。
② タグの効果は4〜5単語程度
先ほど解説した通りです。長文全体のトーンを一括で変える用途には適していません。
③ 音声や言語によってばらつきがある
対応言語は70以上に達し、Flash系の約32言語から大幅に拡大しました。
日本語のように、これまでニュアンス表現が控えめだった言語の表現力が向上したと公式ドキュメントでも言及されています。
ただし、表現力の高さには言語ごとに差があることも同じドキュメントに記されています。
日本語で運用するエージェントであれば、実際に採用する音声を使って日本語でテストを数回行い、品質を確かめてから本番導入するのが確実です。英語デモのクオリティがそのまま日本語に当てはまるとは限りません。
💰 6. 追加コストはかかりません
この点も非常によくいただくご質問ですが、公式FAQの回答は「いいえ(かかりません)」です。
Eleven v3 Conversationalは、エージェントで利用できる他のTTSモデルと同一単価であり、1分あたり$0.08から利用可能です。表現モードを有効にしたからといって追加費用が発生することはありません。
通話量に応じた月額費用の試算は、料金計算ツールにて分単位でご確認いただけます。
✍️ まとめ
今回のポイントをまとめると以下の通りです。
設定方法:TTSモデルを「V3 Conversational」にするだけ
トーンの調整:状況ごとのニュアンスをシステムプロンプトに文章で指定する
ピンポイント指定:変化をつけたい箇所の直前にタグを挿入する(効果は4〜5単語)
注意点:PVCを運用中の場合は、事前に音質を比較検証してから判断する
最後までお読みいただきありがとうございました。⚡